糖尿病網膜症の治療は、しっかりした血糖コントロールを行うことです。眼科医の我々がどれだけ治療を頑張っても、おおもとの「血糖値」が改善しなければ糖尿病網膜症も悪くなる一方です。内科の先生の指示を守っていただき、治療を頑張りましょう。なんといっても治療の主役は患者さんご本人です。
血糖コントロールを行っても糖尿病網膜症が進行してしまったり、血管が詰まってしまっている部分があれば、レーザー光凝固術が必要となります。
レーザー光凝固術をしても進行するようなら手術が必要となることもあります。
糖尿病網膜症の進行
糖尿病網膜症は、進行状態によって3段階に分けられ、治療法も異なります。
糖尿病が発症してもすぐに糖尿病網膜症になるわけではありません。早期に糖尿病を治療すれば網膜症の発症は未然に防げますし、糖尿病網膜症を発症してしまっていてもごく早期でとどめていれば良好な視力を保てます。
しかし糖尿病網膜症をいちどこじらせてしまうと、その失った視力は回復が非常に困難です。「見づらくなったら眼科に行けばいいや」ではほとんどの場合で手遅れとなってしまいますので、是非眼科の定期受診をしてください。
単純糖尿病網膜症(初期)
糖尿病網膜症の初期は、網膜の血管壁が盛り上がる血管瘤、小さな出血を起こしている程度であり、血管から血液成分が漏れている状態です。
自覚症状はほとんどありません。しかし「糖尿病網膜症」という坂をコロコロ下り始めてしまった状態ですので、ここで進行を食い止めなければなりません。血糖コントロールをしっかり行っていただくことはもちろん、糖尿病網膜症の病状が進行しているような徴候があった場合にいちはやく治療を開始するために定期的な眼科受診はかかせません。
増殖前糖尿病網膜症(中期)
網膜の血管が広範囲に閉塞している状態です。いちど詰まってしまった血管はもとに戻りません。
「血管」というのはそもそも、体のすみずみの組織にまで酸素や栄養素を送り届けるために存在します。それが詰まってしまうわけですから、詰まった先の組織には酸素や栄養素が行きわたらなくなってしまい、「壊死」などを引き起こします。網膜の場合には「新生血管」という、非常にもろくて破れやすい血管ができ始めます。いつ出血するかわからない、爆弾のような存在です。
糖尿病網膜症の中期は、かすみ目などの自覚症状があることもありますが、全く症状があらわれない場合もあります。
増殖糖尿病網膜症(末期)
糖尿病網膜症が進行すると、新生血管が破れて硝子体出血を起こし飛蚊症や急激な視力低下を起こすことがあります。またこの新生血管が「増殖膜」という硬い膜を形成して網膜を引っ張ってしまうと網膜に穴があいたり網膜剥離を引き起こしたりして大変な手術が必要になってしまいます。
ここでの手術は「失明だけはしないように、少しでも視力を残す」目的での手術であり、視力は回復しません。
糖尿病黄斑浮腫
網膜のなかの「黄斑」という、ものを注視するときのまさに中心部分、ここが糖尿病の影響で浮腫んでしまい、視界がぼやけたり、ゆがんだり、視力が低下する症状がでてくるのが糖尿病黄斑浮腫です。
血糖値の数字以外にも、血圧や腎臓の機能も影響しているといわれています。
治療には「抗VEGF抗体硝子体内注射(眼の中に直接投与する注射の治療)」またはレーザー光凝固術があります。どちらも複数回の治療が必要となるケースが多いです。
糖尿病の合併症以外でも黄斑浮腫が起こることがあります。
特に、ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症などがあると網膜や黄斑のむくみを起こしやすく、発症リスクが上がります。むくみが続くと黄斑の神経が障害を受けて、視力や視野に障害が現れます。