白内障手術を先延ばしするリスクと最適な治療時期の見極め方
- 2025年8月19日
- 白内障
白内障とは?症状と進行のメカニズム
白内障は目の中の「水晶体」が濁ってしまう病気です。水晶体はカメラでいうレンズの役割を果たしており、この部分が濁ることで視界が悪くなります。
正常な水晶体は透明で、外から入ってきた光を屈折させて網膜にピントを合わせる重要な役割を担っています。しかし、加齢や様々な原因によって水晶体のタンパク質が変性し、徐々に白く濁っていくのです。
白内障の主な原因は加齢によるものが最も多く、80代以上ではほとんどの方が白内障になっているとされています。私が診察する患者さんの中にも、「年のせいだから仕方ない」と諦めている方が多くいらっしゃいます。
白内障の代表的な症状としては、物が見えにくい(視力低下)、霞んで見える(霧視)、まぶしく感じる(羞明)、ダブって見える(単眼複視)などがあります。
また、白内障が進行してくると目の度数が変化(近視化、乱視化)することがあるため、眼鏡が合わなくなったと感じる方もいらっしゃいます。こうした症状は徐々に進行し、日常生活に支障をきたすようになります。
白内障手術を先延ばしするリスクとは?
「まだ見えるから大丈夫」「手術は怖いから様子を見たい」。こうした理由で白内障手術を先延ばしにする患者さんは少なくありません。
しかし、白内障手術を必要以上に先延ばしすることには、いくつかのリスクが伴います。長年の臨床経験から、私が特に懸念するリスクについてお伝えします。
視力低下の進行と生活の質の低下
白内障を放置すると、視力はどんどん低下していきます。初期段階では気にならなかった症状も、徐々に日常生活に影響を及ぼすようになります。
例えば、運転中に対向車のライトがまぶしく感じたり、夜間の視界が極端に悪くなったりすることで、事故のリスクが高まります。また、読書や趣味の活動が困難になり、生活の質が低下することも少なくありません。
私の診療経験では、特に高齢の患者さんの場合、視力低下によって外出を控えるようになり、社会的孤立や運動不足につながるケースも見られます。
白内障が進行すると、視力だけでなく色の認識も変化します。水晶体の濁りによって、色がくすんで見えるようになり、コントラストも低下します。これにより、階段の段差が見えにくくなるなど、転倒リスクも高まります。
手術の難易度上昇と合併症リスク
白内障を長期間放置すると、水晶体の硬化が進み、手術の難易度が上がることがあります。
白内障が進みすぎると、水晶体が硬くなりすぎて超音波で砕きにくくなったり、水晶体を支える靭帯が弱くなったりすることがあります。これにより手術時間が長くなり、合併症のリスクが高まる可能性があるのです。
特に高度に進行した白内障では、手術中の視認性が低下し、より慎重な操作が必要となります。また、硬化した水晶体を処理する際に、より多くのエネルギーを使用することになり、角膜内皮細胞へのダメージが大きくなる可能性もあります。
私が経験した症例では、非常に進行した白内障の患者さんの場合、通常より手術時間が長くなり、術後の回復にも時間がかかることがありました。
他の眼疾患の発見・治療の遅れ
白内障によって視界が悪くなると、眼底検査などが困難になり、他の眼疾患の発見が遅れる可能性があります。
特に緑内障や糖尿病網膜症、加齢黄斑変性などの重篤な眼疾患は、早期発見・早期治療が重要です。白内障が進行して眼底の観察が難しくなると、これらの疾患を見逃してしまうリスクが高まります。
私の臨床経験では、白内障手術後に初めて緑内障や網膜疾患が発見されるケースも少なくありません。これらの疾患は早期治療が遅れると、取り返しのつかない視力障害につながる可能性があります。
白内障手術を受けることで、眼底の観察が容易になり、他の眼疾患の早期発見・治療につながるというメリットもあるのです。
白内障手術の最適なタイミングはいつ?
「白内障手術はいつ受けるべきか?」これは多くの患者さんから受ける質問です。結論から言えば、白内障手術の最適なタイミングは「見えにくいと感じたとき」です。
視力の数値だけで判断するのではなく、患者さん一人ひとりの生活環境や不便さの程度を考慮して決めることが重要です。ここでは、手術を検討すべきタイミングについて詳しく解説します。
日常生活に支障が出始めたとき
白内障手術を検討すべき最も一般的なタイミングは、日常生活に支障が出始めたときです。
例えば、運転中に標識が見えにくい、新聞や本の文字が読みづらい、テレビの字幕が見えにくいなど、普段の生活で不便を感じるようになったら手術を検討する時期かもしれません。
私の患者さんの中には、趣味の読書や裁縫ができなくなったことをきっかけに手術を決意された方も多くいらっしゃいます。また、夜間の運転に不安を感じるようになったという理由で受診される方も少なくありません。
日常生活での不便さは人それぞれです。あなたにとって大切な活動に支障が出始めたら、それが手術を検討するタイミングと言えるでしょう。
眼科医の専門的見地からの判断
白内障の進行度合いや他の眼疾患の有無など、医学的な観点からも手術のタイミングを判断することがあります。
例えば、白内障が急速に進行している場合や、白内障によって他の眼疾患の検査や治療が困難になっている場合には、早めの手術をお勧めすることがあります。
特に糖尿病や高血圧などの基礎疾患をお持ちの方は、網膜の状態を定期的に観察する必要があります。白内障が進行して眼底の観察が難しくなると、網膜疾患の早期発見が遅れる可能性があるため、比較的早い段階での手術を検討することもあります。
また、緑内障を合併している場合は、眼圧コントロールや視野検査の正確性を考慮して、手術のタイミングを決めることもあります。
運転免許更新や就労のための視力確保
運転免許の更新や仕事上必要な視力を確保するために、白内障手術を検討するケースも少なくありません。
普通自動車の運転免許更新時の視力基準は、「左右とも0.3以上で、両眼で0.7以上」が必要です。片眼の視力が0.3未満の場合は、もう片方の眼の視力は0.7以上で視野が左右150度以上必要となります。
白内障によって視力が低下し、この基準を満たせなくなった場合、運転免許の更新ができなくなる可能性があります。特に車が生活の足となっている地方在住の方にとっては、運転免許は生活の質に直結する重要な問題です。
また、仕事上必要な視力を維持するために手術を検討される方もいらっしゃいます。細かい作業が必要な職業の方や、パソコン作業が多い方などは、比較的早い段階で手術を受けることで、仕事のパフォーマンスを維持できる場合があります。
白内障手術の種類と選択肢
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入する手術です。現在の主流は、小さな切開創から超音波を使って水晶体を砕き吸引する「超音波乳化吸引術」と呼ばれる方法です。
手術は基本的に局所麻酔で行われ、日帰りで受けることができます。手術時間は通常20〜30分程度ですが、白内障の程度や患者さんの状態によって異なります。
眼内レンズの種類と特徴
白内障手術では、取り除いた水晶体の代わりに眼内レンズを挿入します。眼内レンズには様々な種類があり、患者さんのライフスタイルや希望に合わせて選択することができます。
最も一般的なのは「単焦点眼内レンズ」で、一定の距離(遠方または近方)にピントを合わせることができます。保険適用となるため、経済的な負担が少ないのが特徴です。
一方、「多焦点眼内レンズ」は遠方から近方まで複数の距離にピントを合わせることができ、術後の眼鏡依存度を減らすことができます。ただし保険適用外となるため、自己負担額が高くなります。
また、乱視を同時に矯正できる「トーリック眼内レンズ」もあります。乱視が強い方は、この種類のレンズを選択することで、より良好な裸眼視力を得られる可能性があります。
眼内レンズの選択は、患者さんの生活スタイルや希望、眼の状態などを総合的に考慮して決定します。当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせたオーダーメイドの医療を提供することを心がけています。
手術後の回復と生活の変化
白内障手術後は、多くの患者さんが「世界が明るく鮮やかになった」と感じられます。色の認識が改善し、コントラストがはっきりするため、日常生活がより快適になることが期待できます。
手術直後は、眼の保護や感染予防のために、医師の指示に従った点眼や生活上の注意が必要です。通常、術後1〜2週間程度で日常生活のほとんどを再開できるようになります。
ただし、選択した眼内レンズの種類によっては、特定の距離(近方や中間距離など)を見る際に眼鏡が必要になる場合があります。これは事前に医師と相談し、自分のライフスタイルに合ったレンズを選択することで対応できます。
私の患者さんの中には、手術後に趣味や活動の幅が広がったという方も多くいらっしゃいます。例えば、読書が再び楽しめるようになった、運転に自信が持てるようになった、旅行に積極的に出かけるようになったなど、生活の質が向上したという声をよく聞きます。
白内障手術に関するよくある質問と不安
白内障手術を検討する際、多くの患者さんが様々な不安や疑問を抱えています。ここでは、私が診療の中でよく受ける質問とその回答をご紹介します。
手術のリスクと合併症について
「白内障手術は怖くないですか?」これは多くの患者さんから受ける質問です。
白内障手術は、現在では非常に安全性の高い手術となっています。しかし、どんな手術にもリスクはあります。主な合併症としては、感染症、眼圧上昇、後発白内障などが挙げられます。
感染症は非常にまれですが、発生した場合は重篤な視力障害につながる可能性があります。当院では、徹底した衛生管理と最新の手術機器を用いて、感染リスクの低減に努めています。
眼圧上昇は術後に一時的に起こることがありますが、多くの場合は点眼薬でコントロール可能です。定期的な術後検診で眼圧をチェックし、必要に応じて治療を行います。
後発白内障は、術後数ヶ月から数年経過した後に、眼内レンズを支える袋(水晶体嚢)が白く濁ってくる現象です。これは白内障の再発ではなく、レーザー治療で簡単に改善できます。
手術のリスクを最小限に抑えるためには、術前検査で眼の状態を詳しく調べ、患者さん一人ひとりに最適な手術計画を立てることが重要です。また、術後の定期検診もしっかりと受けていただくことで、万が一の合併症にも早期に対応できます。
手術後の視力回復と眼鏡の必要性
「手術後はメガネが不要になりますか?」これも多くの患者さんが気にされる点です。
白内障手術後の視力回復は、眼の状態や選択する眼内レンズの種類によって異なります。単焦点眼内レンズを選択した場合、通常は遠方か近方のどちらかに焦点を合わせるため、もう一方の距離を見る際には眼鏡が必要になることが多いです。
例えば、遠方用の眼内レンズを選んだ場合、運転や景色を見るときには眼鏡なしで見えるようになりますが、新聞や本を読むときには老眼鏡が必要になることがあります。
多焦点眼内レンズを選択すると、遠方から近方まで眼鏡なしで見える可能性が高まりますが、完全に眼鏡が不要になるとは限りません。また、多焦点レンズには光のにじみやコントラスト低下などのデメリットもあります。
手術前に、ご自身のライフスタイルや希望する見え方について医師とよく相談し、最適な眼内レンズを選択することが大切です。
手術費用と保険適用について
白内障手術の費用は、選択する眼内レンズの種類や施設によって異なります。
基本的な白内障手術と単焦点眼内レンズは保険適用となるため、自己負担額は保険の種類や年齢によって変わります。一般的な3割負担の場合、片眼あたり約3〜5万円程度が自己負担額となることが多いです。
一方、多焦点眼内レンズやトーリック眼内レンズなどの特殊なレンズを選択する場合は、保険適用外となる部分があり、追加費用が発生します。これらの特殊レンズを選択した場合、片眼あたり約15〜40万円程度の自己負担額となることが一般的です。
当院では、患者さんのご希望や経済的な状況も考慮しながら、最適な治療選択をサポートしています。費用面でご不安がある場合は、遠慮なくご相談ください。
まとめ:白内障手術の先延ばしは慎重に
白内障は加齢とともに誰にでも起こりうる目の病気ですが、適切なタイミングで手術を受けることで、視力を回復し、生活の質を向上させることができます。
白内障手術を必要以上に先延ばしすることには、視力低下の進行、手術難易度の上昇、他の眼疾患の発見・治療の遅れなどのリスクがあります。
手術の最適なタイミングは、日常生活に支障が出始めたとき、眼科医の専門的見地からの判断、運転免許更新や就労のための視力確保が必要なときなど、患者さん一人ひとりの状況によって異なります。
現在の白内障手術は非常に安全性が高く、多くの場合日帰りで受けることができます。また、様々な種類の眼内レンズから選択することで、患者さんのライフスタイルに合わせた視力回復が期待できます。
白内障の症状でお悩みの方は、早めに眼科を受診し、専門医に相談することをお勧めします。当院では、患者さん一人ひとりの状況に合わせたオーダーメイドの医療を提供し、より良い視力と生活の質の向上をサポートしています。
視力は私たちの生活の質に直結する大切な感覚です。「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、適切なタイミングで治療を検討することが、長期的な目の健康につながります。
詳しい診断や治療についてのご相談は、ぜひ 幕張久木元眼科 までお気軽にお問い合わせください。患者さん一人ひとりに寄り添った診療を心がけております。
著者情報
幕張久木元眼科 院長久木元 延行
獨協医科大学 医学部医学科卒業
東京医科歯科大学病院 臨床研修医
東京医科歯科大学 眼科学講座 入局
東京都立広尾病院 眼科
東京医科歯科大学病院 眼科
東京都立多摩総合医療センター 眼科
東京医科歯科大学病院 眼科
– 白內障 •屈折矯正外来 主任
-糖尿病網膜症專門外来
– 医療安全管理リスクマネージャー
幕張久木元眼科開院