小児近視を放置すると失明リスクも?進行を抑える最新治療と予防法
- 2026年2月9日
- 眼科
小児近視が増えている背景と深刻なリスク
近年、小学生のうちからメガネをかける子どもが急増しています。タブレット端末やスマートフォンの普及、新型コロナウイルス感染症による外出自粛の影響もあり、子どもたちの近視は世界的な問題となっています。
実は、近視は単に「見えにくい」だけの問題ではありません。
軽度の近視であっても、将来的に緑内障や網膜剥離などの深刻な眼疾患を発症するリスクが高まることが、疫学調査で明らかになっています。特に、小児期に発症した近視が強度近視や病的近視へと進行すると、失明につながる可能性も否定できません。
東京医科歯科大学の研究では、病的近視による視覚障害患者の83%が、小児期にすでに視神経周囲にびまん性萎縮病変を示していたことが判明しました。つまり、将来失明に至る可能性のある子どもは、すでに小児期において一般的な学童近視とは異なる眼底所見を示しているのです。
この事実は、小児期における適切な眼科検査と早期介入の重要性を示しています。単に「見えにくい」という症状だけでなく、眼底の状態を詳しく調べることで、将来のリスクを予測し、適切な対策を講じることができるようになってきました。
近視とは何か?仮性近視と真性近視の違い

近視は、眼球の奥行き(眼軸長)が伸びることで起こる屈折異常です。
健康な人の眼軸長は約23mm前後ですが、強度近視の人では30mm近くまで伸びる場合もあります。いったん物理的に長く伸びた目は、基本的に自然には元に戻ることはありません。
この眼軸長の伸びは、成長期の子どもに特に起こりやすく、一度伸びてしまうと元には戻らないため、進行を抑えることが非常に重要になります。
仮性近視について
一時的に「目が疲れてピント調節がうまく働かず、遠くが見えにくくなる」状態を仮性近視と呼びます。
これは、スマホやタブレットを長時間凝視した後などに起こりやすく、休憩を取ると解消することもあります。仮性近視は、毛様体筋という筋肉が緊張しっぱなしになり、水晶体が膨らんだままロックされやすくなった状態です。
「子どもの近視は治る」と言われる場合、実際は仮性近視が回復しているケースが多く、「軸が伸びた真性近視」自体が治っているわけではありません。
仮性近視の段階であれば、適切な休息や生活習慣の改善により、症状が改善する可能性があります。しかし、この段階を見逃してしまうと、次第に真性近視へと移行していくリスクが高まります。
真性近視への移行
仮性近視は、適切なケアでリセットできます。しかし、そのまま放置してしまうと、水晶体を厚くする状態が慢性化し、最終的に「目の奥行き(眼軸)が伸びる真性近視」に移行してしまう恐れがあります。
真性近視になると、物理的に眼球が長くなっているため、自然には治りません。
この移行期を見逃さないためにも、お子さまが「黒板が見えにくい」「目を細めて見ている」といった症状を示したら、早めに眼科を受診することが大切です。仮性近視の段階で適切な対応をすることで、真性近視への進行を防げる可能性があります。
近視を放置すると失明リスクが高まる理由
近視は、メガネなどで矯正すれば視力が出るものとして、これまであまり問題視されてきませんでした。
しかし疫学データの蓄積から、近視が将来の目の病気の罹患率に与える影響が大きいことがわかりました。
軽度の近視であっても、近視がない場合と比較して、緑内障になるリスクは4倍も高いことがわかっています。子どもたちが生涯にわたり、良好な視力を維持するためには、小児期に近視の発症と進行を予防することが、いかに大切であるかがわかります。
さらに、近視の度数が強くなるほど、網膜剥離や黄斑変性症などの深刻な眼疾患のリスクも高まることが報告されています。これらの疾患は、適切な治療を行わなければ、視力の大幅な低下や失明につながる可能性があります。
病的近視の深刻な合併症
病的近視では、眼球がいびつに変形することにより、網膜や視神経を障害され失明を来します。
日本の疫学研究(多治見スタディ)でも、病的近視は失明原因の20%を占め最多です。病的近視特有の病気(近視性脈絡膜新生血管、近視性網脈絡膜萎縮、近視性牽引黄斑症など)を生じるため、将来、視覚障害に至るリスクはより高まります。
病的近視は、単に度数が強いというだけでなく、眼球の構造そのものに変化が生じている状態です。網膜が薄くなったり、視神経が圧迫されたりすることで、視機能に深刻な影響を及ぼします。
特に注意が必要なのは、病的近視による視力低下は、メガネやコンタクトレンズでは矯正できない場合が多いという点です。そのため、小児期から近視の進行を抑え、病的近視への移行を防ぐことが極めて重要になります。
小児近視の進行を抑える最新治療法
これまで「矯正する」ことが中心だった小児の近視治療に、「進行抑制する」治療が続々登場しています。
2026年現在、有効性・安全性が示されている代表的な治療法をご紹介します。
低濃度アトロピン点眼液
近視の進行を抑える方法として、世界で最も広く行われているのが低濃度アトロピン点眼です。
0.01%~0.05%の低濃度点眼には、点眼しない場合と比べて、点眼を始めた最初の1年間で近視の進行をおよそ30~70%抑える効果があることがわかっています。濃度が低いため、副作用はほとんどありません。使い方は1日1回、寝る前にさすだけなので、とても手軽です。
日本においては、2024年12月末に、近視進行抑制治療薬として初めて厚生労働省の承認を受けた参天製薬の「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」が、2025年春の販売開始が予定されています。
低濃度アトロピン点眼は、従来の高濃度アトロピンと異なり、瞳孔が開きすぎたり、まぶしさを感じたりする副作用がほとんどないため、お子さまでも安心して使用できます。ただし、効果には個人差があるため、定期的な眼科受診で進行状況を確認することが大切です。
近視管理用眼鏡

海外では、周辺部の網膜に、網膜の手前でピントが合う光をたくさん作用させたり、周辺部の網膜のコントラストを下げることで、近視進行を抑制しようとする眼鏡が販売されています。
2018年ごろから海外で販売されるようになった、これらの新しいタイプの近視管理用眼鏡は、通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で、装用開始から2年間でおおよそ55%〜60%、近視の進行を抑制することが報告されています。
眼鏡による治療であれば、より小さな子どもでも簡単に実施することが可能です。現在のガイドライン(第1版)では、MiYOSMART®(HOYA社)とStellest®(Nikon-Essilor社)が推奨されており、国内販売については準備が整い次第、順次開始される予定です。
近視管理用眼鏡は、見た目は通常の眼鏡とほとんど変わらないため、お子さまが抵抗なく使用できるというメリットがあります。また、点眼薬のように毎日の習慣として意識する必要がなく、普段の眼鏡として使用するだけで効果が期待できます。
多焦点ソフトコンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズは、本来は老視を矯正するために開発された「遠近両用コンタクトレンズ」として知られています。
近年、海外ではこの技術を応用し、子どもの近視進行を抑えるための多焦点ソフトコンタクトレンズが各社から販売されています。1日使い捨てタイプなので衛生的に管理しやすく、国によっては低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーよりも広く使われている治療法です。
「MiSight® 1day」(クーパービジョン社)は、長らく唯一アメリカFDAの承認を受けていた製品です。このレンズは世界各国で広く使用されており、臨床試験では装用開始から3年間で近視進行を59%抑制する効果が示されています。日本でも国内臨床治験が終了し、厚生労働省の承認取得に向けた手続きが進められています。
多焦点ソフトコンタクトレンズは、スポーツをするお子さまや、眼鏡の装用を嫌がるお子さまにとって、有効な選択肢となります。ただし、適切な装用方法や衛生管理が必要なため、保護者の方のサポートが重要です。
オルソケラトロジー
オルソケラトロジーは、カーブの弱いハードコンタクトレンズを睡眠時に装着して一時的に角膜の形状を平らにし、焦点を後方にずらすことで眼鏡やコンタクトなしで、良好な裸眼視力を得ようとする屈折矯正法です。
レンズを外しても一定時間はその形状が続くので、日中は裸眼で過ごすといったことが可能になります。オルソケラトロジーは、近視の矯正が得られるだけでなく、装用開始2年間で近視進行を抑制する効果も報告されています。
オルソケラトロジーは、日中に眼鏡やコンタクトレンズを装用する必要がないため、スポーツをするお子さまに特に適しています。ただし、毎晩のレンズ装用と適切なケアが必要なため、お子さまの年齢や生活習慣を考慮して選択することが大切です。
家庭でできる小児近視の予防法
眼科での治療と並行して、家庭でできる予防策も非常に重要です。
生活習慣の見直しによって、近視の発症や進行を抑えることができます。
近距離作業を長時間続けない
スマートフォンやタブレット、ゲーム機などの近距離作業を長時間続けることは、近視進行の大きな要因です。
30分に1回は遠くを見る休憩を取り、目の緊張をほぐすことが大切です。画面との距離は30cm以上離し、適切な姿勢で使用するよう心がけましょう。
また、読書や宿題などの近距離作業を行う際も、適度な明るさを確保し、正しい姿勢を保つことが重要です。暗い場所での作業は目に負担をかけるため、十分な照明のもとで行うようにしましょう。
屋外で過ごす時間を確保する

屋外活動時間の減少は、近視増加の大きな要因の一つです。
太陽光に含まれるバイオレットライト(波長360~400nmの紫色の光)には、近視の改善やうつ病の予防につながる効果があることが研究で示されています。1日2時間程度、屋外で過ごす時間を確保することが推奨されています。
屋外活動は、単に目の健康に良いだけでなく、お子さまの全身の健康や精神的な発達にも重要です。公園で遊んだり、散歩をしたりするだけでも効果が期待できますので、日常生活の中で意識的に屋外で過ごす時間を増やすよう心がけましょう。
定期的に眼科受診をする
学校検診で「要受診」と言われた場合はもちろん、「黒板が見えない」などの不便を感じたら、すぐに眼科を受診することが重要です。
定期的な眼科検査により、近視の進行状況を把握し、適切な治療や予防策を講じることができます。特に、将来病的近視による失明を起こしうるハイリスク小児を早期に発見するためにも、眼科での散瞳検査や眼底検査が有効です。
近視の進行は、お子さま自身では気づきにくいことがあります。保護者の方が定期的に眼科受診を促し、お子さまの目の健康を守ることが大切です。
幕張久木元眼科での小児近視診療
幕張久木元眼科では、小児近視の診療に力を入れています。
院長の久木元延行は、東京医科歯科大学病院で白内障・屈折矯正外来の主任を務め、糖尿病網膜症専門外来も担当してきた経験豊富な眼科専門医です。日本眼科学会認定眼科専門医として、お子さまの目の健康を長期的に守るための診療を提供しています。
当院では、フルオレセイン染色などの検査を行い、お子さまの目の状態を正確に評価します。散瞳検査や眼底検査を通じて、将来の病的近視発症リスクを見極め、経過観察でよいものか、早急な治療が必要かを判断します。
低濃度アトロピン点眼などの近視進行抑制治療についても、お子さまの年齢や近視の程度、生活背景を考慮した治療計画を立てています。検査結果や治療方針については、できる限り分かりやすくご説明し、保護者の方がお子さまの目の状態を理解したうえで治療に臨めるよう心がけています。
「念のため受診したい」という段階からでも安心してご相談いただける体制を整えています。お子さまの目の違和感や視力低下が気になる場合は、お気軽にご来院ください。
また、当院では、お子さまが安心して受診できるよう、優しく丁寧な対応を心がけています。初めての眼科受診で不安を感じるお子さまにも、リラックスして検査を受けていただけるよう配慮しています。
まとめ:小児近視は「進行を抑える」が鍵
小児近視は、単に「見えにくい」だけの問題ではありません。
放置すると強度近視や病的近視に進行し、網膜剥離や緑内障など失明につながる病気のリスクが高まります。しかし、適切な治療と予防策により、近視の進行を抑えることが可能です。
低濃度アトロピン点眼、近視管理用眼鏡、多焦点ソフトコンタクトレンズ、オルソケラトロジーなど、最新の近視抑制治療が続々登場しています。また、家庭でできる予防法として、近距離作業を長時間続けない、屋外で過ごす時間を確保する、定期的に眼科受診をすることが重要です。
お子さまの目の健康を守るためには、早期発見・早期治療が鍵となります。
幕張久木元眼科では、地域のかかりつけ眼科として、お子さまの近視診療に力を入れています。お子さまの視力や目の状態について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。将来の視機能を守るために、今できることから始めましょう。
近視は、適切な対応により進行を抑えることができる疾患です。お子さまの将来の視力を守るために、保護者の方と医療機関が協力して取り組むことが大切です。
著者情報
幕張久木元眼科 院長 久木元 延行

経歴
獨協医科大学 医学部医学科卒業
東京医科歯科大学病院 臨床研修医
東京医科歯科大学 眼科学講座 入局
東京都立広尾病院 眼科
東京医科歯科大学病院 眼科
東京都立多摩総合医療センター 眼科
東京医科歯科大学病院 眼科
– 白内障・屈折矯正外来 主任
– 糖尿病網膜症専門外来
– 医療安全管理リスクマネージャー
幕張久木元眼科開院
資格
日本眼科学会認定眼科専門医
水晶体嚢拡張リング認定医
難病指定医
ボトックス認定医(眼瞼痙攣、斜視)
光線力学療法認定医
所属学会
日本眼科学会
日本眼手術学会
日本白内障屈折矯正学会
日本網膜硝子体学会
日本糖尿病眼学会


